永井"ホトケ"隆


「TRICK BAG TRIBE」1999.04.27


Trick Bag Tribe Vol6.

はっきりしない空模様が続いていますが、みなさんは花見などに出かけられたのでしょうか。モリさん、そして前号で大西と紹介してきたプロフィールですが今回は花よりダンゴでしようか、この人は・・・いや意外とダンゴより花だったりするんですが、キーボードのコジコジくんこと小島良喜です。

小島良喜/1957/11/22生まれ/兵庫県出身
犬好きの人はたくさんいますが、我々の周りで犬の気持ちがわかるのは彼ぐらいです。以前ツアーの車中で「犬の気持ちがわかる本」というのを彼が読んでいたことがありましたが、私は「コジの気持ちがわかる本」が欲しいと時々思います。と、言うのも時折、Eメールを 送ってくれる彼ですが、添付されてくる写真はすごく大きいのですが、本文の方には「ワ〜〜〜〜ン。」ぐらいしか書いてありません。しかも、添付の写真が何を意味しているのか・・わからない代物で、きっと奥深い意図があるものだと数日考えるのですが、結局あまり意味はなかったりするのです。さて、テクニシャンである千手観音ピアノと言われるジャズピアニスト佐山雅弘にとって目の上のたんこぶ的存在がこの犬、いやこの小島良喜なのです。ふたりは現在「4Hands」という名のデュオを時々やっていますが、技の応酬、速さの競演かと思いきや、意外と互いにサポートしあう瞬間などもあます。しかし最後には互いの手の内を見透かしたかのような激しい攻防がくり返され、最終的に土石流と火砕流のクラッシュと相成るのですが・・・どちらが勝ったのか負けたのかは犬と猪にしか分りません。昨年、佐山観音にコジコジくんのピアノの音の感じが変わってきたように思うのだが・・と言ったところ、「気づいたか?アイツなぁ、手の指がいままでより広がっとるぞ」と教えてくれました。ふーん、肉体的に進化してるんや。小島良喜の名前を「KUWATA BAND」はじめ日本のメジャー・シーンで最初に知った方も多いと思います。また、プロデューサー、アレンジャ−としてCDで名前を見た方もいるでしょう。しかし、ソロイストとしての彼の素晴らしさを知っている人はあまりいなかったように思います。 TrickBag のライヴでは放し飼い状態なので、まるで野原を、雪原を駆け巡る犬のようにしっぽを振って、あっちへこっちへ走り回り、時折匂いを嗅いでいる時もありますがまた激しく駆け回るピアノ・プレイが見られます。
95年にはじめてニューオリンズを訪れたときのことです。ホトケそして山岸たちと或クラブに出かけました。そこでは山岸がすでに知っていたティモシア(小島曰く、ホトケとポンタと足した顔)という熟女の女性シンガーが歌っておりました。夜も更けて当然のようにセッションとなり、まずいつも最前線に突入していく山岸がそのバンドに入り、続いてホトケが援護射撃を打ち歌い、そこへキーボードの吉弘千鶴子が従軍看護婦として手当てにあたり、そして最後に新兵の小島がそのバンドの白人ピアニスト「W」と交代しました。小島が弾き始めた時、Wはビールなど飲んでカウンターにいたガールフレンドの肩に手をまわし、ニヤニヤ笑いながら耳元で何やら囁いておりました。しばらくするとWは囁きをやめて小島の演奏を聞き始め、時折歌い終わったホトケの方を見て「ヤツもなかなか弾くじゃないか」てな仕種をしてました。さて、だんだんと環境に慣れてきた小島犬は大好きなピアノに触れて嬉しかったのでしょう、グイグイ弾き出しました。Wを見ると飲んでいたビールをカウンターに置き、小島に注目していました。小島犬は鍵盤以外もう何も目に入りません。ニューオリンズのソウルフードも口に合ったのでしようあまりワンワンと鳴くこともなく、鍵盤の上を指が走り回っています。すると Wはガールフレンドに回していた手を下ろし、彼女の顔を見ることもなく、彼女の話も聞いていない状態に入りました。小島犬はいつもの笑いながら弾くモードに入りました。グイグイからグリグリに、そしてゴロゴロ、カンカン・・・キンキンさらにグルグルグル・・・・ガッガッガッ・・と小島犬のテンションが上がる頃には白黒黄、店のみんなの腰が動いておりました。しかし、たったひとり動かなくなった・・フリ−ズしてしまったのがWでした。最後ゴンゴンになって爆弾を破裂させた小島犬はハァハァと笑いながらステージを下り、W と握手をしましたが、W の顔には「まずい、こいつに仕事取られるかもしれんわ」と描いてありました。そんなことは一切「知らん知らん」の小島犬はホトケたちの席に戻り「ああ、おもろかった」とビールをごくごくごくと旨そうに飲んだのでした。念のために言っておきますが、W はしっかりしたプレイをする、決して下手なピアニストてはありません。
そして、この後小島はニューオリンズと日本を行き来し始めるのですが、ニューオリンズで次々に仕事が入ってきたのは当然であります。日本人の大半はピアノという楽器を美しいメロディを奏でるものとしか見ていない、聞いていないように思うのですが、ピアノは打楽器です。手で指で叩くものです。それを優しく叩くと奏でるという表現になるのですが、ピアノの音階のあるパーカッションとしての役割に気づかない人が多いのです。だから、リズムが良くなくてもゴージャスにたくさんの音を弾くと上手いと言われ、ミス・トーンにはうるさいのですがリズムの善し悪しに気づく人は少ないのです。
ブルーズならオーティス・スパンがマディ・ウォーターズの「Mojo Workin'」のイントロをひとりで弾いている2小節あまりのフレイズで、スパンのリズムの素晴らしさを確認できるし、ニューオリンズのプロフェッサー・ロングヘア−はまさに全編打楽器と言っても差し支えないほどパーカッシヴです。小島は日本では希有なパーカッシヴなピアノ・プレイヤーであり、リズムを目覚めさせグルーヴさせるキーボード奏者なのです。彼にソロをまわすと最初の一音からグルーヴをグルグルさせて、バクっと食いついて来ますか゛、あれはフリスビーを投げるとすぐに走りパクっとくわえる犬に似てます。
17才からプロとしてやってきた彼が関わってきたレコーディングは井上陽水、山下達朗、玉置浩二、大黒摩季、Char,浜田省吾・・と、その筋でも高く評価されていることがわかる。そのあたりの経歴やデータを今回あまり詳しく書かなかったのは、小島良喜の熱心なファンの方が作られているホーム・ページ(http://www.pp.iij4u.or.jp/~sky/)があり、かなり詳細に記載されているので一度そちらを見ていただきたい。(パソコンのない方は持っている人に印刷してもらってください。小島良喜がこれからどの方面へ行くのかは誰にもわからない。フツーの犬の気持ちよりもわからない小島犬ですから・・・。

「おもろい小島くん」
1.数年前、大阪でライヴ中。コジコジくんは例によってにこにこ笑いながら快調にとばしてソロを弾いていた。そろそろ終わりかなと歌う体制に入ったホトケがコジコジを見ると彼は笑いながら、口をぱくぱくさせていた。それを見たホトケはギターの山岸に「おい!ジュン見て見て、コジがめちゃノッてるわ。もうワンコーラス弾くいうてるわ。」と言い、もうワンコ−ラスとなった。コジコジはまだ笑いながら、ホトケを見て口をぱくぱくさせている。山岸とホトケは「めちゃノってるやんコジ、ここはもうひとつ行ってもらおや!」と、三たびソロとなった。そんな調子で何コーラス弾いたかわからないが、すべて終わってステージから下りると、手をブラブラ振りながら・・・「手がつった。手がつったって言うてたんや。」とコジコジくん。その時も笑ってた。
2.その昔、まだ大阪にいた頃。小島より天然と言われ、大鵬に似ている、いや古手川祐子に似ていると論争を呼んだピアニスト国府輝幸。この最強のコンビ、国府/小島のKK・コンビが某楽器店でピアノ教室の先生をしていたという。最初はこわいもの見たさ?いや、KK の実体を何も知らない生徒がかなりの数集ったという。ちなみに国府輝幸は兵庫県にある「帝塚山」、この「帝塚山」を「手塚山」と誰かが書いたのを見て、「間違ごてるやん、一本足らんわ」と言って「手」に横に一本書き加えたグレートなやつだ。国府も犬のようなやつだ。一応セントバーナードらしいが、鑑定書なし、飼い主不明、大メシ食い、ちよっと運動不足で太り気味、小島犬ほどすばしっこくないが、ニューオリンズ・ピアノを日本で最初に弾いたのは国府犬だ。つまり2匹の犬がワンワン言いながら先生をやってたわけだが、なぜか徐々に生徒が減っていったという。ふたりとも上手いピアニストなのに・・・・小島曰く「結局、ふたりで弾いてると楽しくなって、ああやこうや言いながら、生徒に何にも教えずにふたりでずっと弾いてしもてたんや・・・」目に見えるようである。
3.小島の才能にはやくから気づいたギターの塩次伸二の話。まだコジコジくんがジャズをあまり知らない頃、彼は伸ちゃんのマンションに居候と言ってもよいほど出入りしていた。そして、当時ジャズに深くハマった伸ちゃんに「小島、お前ビル・エバンス知ってるか?」と聞かれた。知らなかったコジコジくんに彼は「えっ?ビル・エバンス知らんのか?ビル・エバンス聞かなあかんで・・」と言った。言われたコジコジくんは「ビル・エバンスビル・エバンスビル・エバンス・・・」とレコード店へ、そしてジャズのコーナーで「ビル・エバンスビル・エバンスビル・エバンス・・」探したが・・・ない。ない。ない。仕方ないので伸ちゃんに電話−「伸ちゃん、ビル・エバンス一枚もあらへんで・・」。塩次「ええっ?ないわけないやろ。いっぱい出てるでアルバム・・よう探してみいや」。「うん、わかった・・・ビル・エバンスビル・エバンス・・」コジコジくんはビル・エバンスを黒人だと思い込みずっと黒人のジャケットだけを見て探していたのでした。

Thank you for lovin' TB.Love,Freedom&Justice.



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